2007年02月19日

書評:「日本の電機産業再編へのシナリオ」

友人から、この本を読んで見たらと、

日本の電機産業再編へのシナリオ―グローバル・トップワンへの道
」(佐藤 文明 (著))という本を渡された。 

私は電機業界に居た身であり、何が書かれているのかと興味津々で読んでみた。

内容は大略次のとおりである。

・大手電機10社の営業利益率は平均3.2%(05年度)と低利益率に苦しんでいる。 80年代前半には8%程度あった。 外国企業に比べても大幅に低い。(韓国サムスン電子は20%超、フィンランドのノキアは15%) 他の業種に比べても低い。(自動車7社は7.9%、素材30社は9.8%)

・その要因は電機業界の産業構造に起因、価格下落が他の業界に比べて大きいのが最大の要因。 90年代に国内同士の競争が厳しかったためアジア企業と手を組むところが多く、技術を流出させてしまった。 アジア企業は、巨大な設備投資をして一気にシェアを奪って行った。 これが、価格下落が続く構造要因となっている。

・いまだに多くの日本の電機大手が存在できているのは、日本という特殊な市場が残っているおかげだ。 日本の国民性が高機能、多機能な製品を受け入れるため。 低い利益率で日本の電機メーカーはシェアを分け合っている。

・この結果、日本のハイテク電機の時価総額は、世界の企業と比べてどんどん水をあけれている。 売上高でみると日本の大手電機は世界屈指の規模だが、時価総額で見ると大きな差がある。 例えば、シーメンスの売上は日立の約1/3だが、時価総額はシーメンスが逆に1.2倍、営業利益率は1.8倍である。 日本の電機大手の営業利益率の低さが問題である。

・日本の大手電機は横並びでコングロマリット経営を続けていることが、高度成長期には有利に働いたが、現在ではそれが凋落の原因となっている。 各社の研究開発投資も重複している場合が多く、日本全体で見れば研究開発投資が非効率で大きな成果を出していない。

・このままでは、外国資本のM&Aのターゲットになる可能性を否定できない。

・将来に渡り生き残っていくためには、コングロマリットの個別事業別に横串を通す業界再編/集約をし、海外のライバル企業に負けない事業規模や資金投資力を持つことが必須。 内弁慶の国内過当競争を脱し世界市場を指向し、グローバルトップワンへの再編が必要不可欠だ。 

・電機大手の経営トップはそこまでの再編の必要性を感じてなく危機感に欠けている。 今が再編のラストチャンスだ。

<感想>

現在の日本の電機産業の抱えている構造的問題の分析と指摘はそのとおりだと思う。 しかし、生き残りシナリオの「コングロマリット経営の大手10社の縦軸の各事業を、バラバラに分離して2〜3のグループに大同団結して集約/再編する」という提案は、そうあるべきかな?・・・と思う反面、そんな安直に「輪切りにして寄せ集める」ということが果たして正解なのだろうか?・・・という感じも受ける。

コングリマリット経営への批判についても、多くの事業を抱えているからこそ、好不況の波や技術陳腐化による事業変遷を乗り越えて、40〜50年も大手企業として雇用を確保し安定存続できている訳であり、低い営業利益率は安定存続の代償とも言える。  さらに、例えばパソコン事業を例にとると、横串を通して、NEC、富士通、東芝など大手のパソコン事業を1つの企業に集約しても、パソコン事業そのものが世界的に非成長事業となっているのでは、再編効果も疑問かもしれない。

また、日本の電機大手が存在できているのは、日本という特殊な市場が残っているためだと指摘しているが、特殊な日本市場の恩恵を受けているのは、電機業界に限らず、自動車業界でも素材業界など他業界でも同様だと思う。 海外企業との競争が比較的少ない内需セクターの銀行・保険などの方がよほど日本市場の特殊性に乗っかって安穏としていると言えるのではないだろうか。

問題は日本の電機大手の世界シェアの低さだ。 では、世界でシャアを伸ばして成功しているトヨタやホンダなど自動車大手と電機大手の差は、何に起因しているのか? 価格下落率の差とすると、自動車が価格競争に陥らない秘密は何か?

また、電機業界の中でも勝ち組のキャノンの営業利益率15.5%(05年度)と他の電機大手より3倍以上も高い。 キャノンはプリンタ・複写機、デジカメ・カメラ、光学機器が主事業で選択と集中が進んでいて、海外シェアも高いが、それにしても他の電機大手とこれほどまでの営業利益率の差はどこから来るのか?

上記のような、更に突っ込んだ分析から、電機業界への再編提案が欲しい気がする。

ref:「ガラガラポンは可能か」---日本電機産業の再編問題を考える

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